チベタン・マスティフは、チベット高原原産の超大型犬です。ヒマラヤ地方の遊牧民や僧院を守る番犬として育てられてきたとされ、豊かなたてがみのような被毛と堂々とした体つきが特徴です。家族には忠実ですが、見知らぬ人には警戒心が強く、日本の住環境では、体の大きさや夜間の吠え、夏の暑さへの対策が欠かせません。この記事では、成り立ち、性格、日本の暮らしで気をつけたい点、迎える前に確認したいことまでを、犬種標準や獣医関連メディアの情報をもとに整理します。
| 原産国 | チベット(中国) |
| 体高 | オス66cm以上・メス61cm以上(犬種標準が望ましいとする下限。解説では66〜74cm程度の記載も) |
| 体重 | 約32〜77kg(情報源により大きく異なる。犬種標準に体重の記載なし) |
| 性格の傾向 | 独立心と警戒心が強く、家族に忠実といわれる |
| 平均寿命 | 10〜12年程度(情報源により15年とするものも) |
チベタン・マスティフの成り立ち
ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種標準によると、ヒマラヤの遊牧民の作業犬であり、チベットの僧院の護衛犬としても使われてきた犬種です。VCA Animal Hospitalsも、ヒマラヤ高原で遊牧民や孤立した村、僧院を守った大型犬の子孫としています。PetMDは、記録は紀元前1100年ごろまでさかのぼるとしていますが、起源は完全には分かっていないと書いています。
西洋に紹介された最初の例としてよく知られているのは、1847年に、当時のインド総督(JKCの標準では「ハーディング卿」)がヴィクトリア女王に1頭を贈ったことです。その後、1970年代にネパールやインドから犬がアメリカに導入され、繁殖の基盤が広がったとVCAは述べています。一方、Wikipediaは、世界的に人気が高まった結果、繁殖が急増し、品質の低い犬や交雑犬が増えたことがあると伝えています。血統や繁殖の方針を確認することが、とくに大切な犬種といえます。
チベタン・マスティフの性格
JKCの犬種標準は、独立心と警戒心が強く、命令には従い、家族とテリトリー(縄張り)に忠実な犬と述べています。英国のロイヤル・ケネルクラブの犬種標準も、独立心があり、よそよそしく、守る気質をもつ一方で、落ち着いて辛抱強い面があるとしています。家族には穏やかで優しく、見知らぬ人にはよそよそしく、縄張り意識が強いという表現は、VCAやAKCの解説にも共通します。
しつけについて、PetMDは、賢いものの意思が強く、指示への反応がゆっくりなことがあるため、ごほうびを使ったしつけを根気よく続ける必要があるとしています。Wikipediaは、初心者には勧められない犬種とし、見知らぬ人に慎重で守る本能が強いために、社会化(さまざまな人や環境に慣らすこと)が重要だと述べています。
もうひとつの特徴は、夜の過ごし方です。PetMDは、家の中では日中に眠っていることが多く、夜のほうが活動的になるとしています。VCAは、閉じ込められて退屈すると、いらだって物を壊すことがあり、夜に聞こえる不審な物音に大きな声で吠えることがあるとしています。見張りをする犬として育てられてきた背景から来る習性と考えられます。
身体的特徴
- 体高:JKCと英国の犬種標準では、オス66cm以上、メス61cm以上が望ましいとされています(上限は決められていません)。VCAは26〜28インチ(約66〜71cm)、PetMDはオス26〜29インチ(約66〜74cm)、メス24〜27インチ(約61〜69cm)
- 体重:犬種標準に記載はありません。PetMDはオス90〜150ポンド(約41〜68kg)、メス70〜120ポンド(約32〜54kg)、VCAは140〜170ポンド(約64〜77kg)
- 被毛:密で長めの上毛と、厚い羊毛状の下毛のダブルコート。オスのほうが被毛の量が多く、首まわりのたてがみが目立ちます
- 毛色:ブラック、ブラック&タン、ブルー、ゴールドなど(JKC)
- 尾:ふさふさした尾を背中の上に巻いて持つ
JKCの犬種標準は、成犬になるまでに時間がかかり、メスは2〜3年、オスは最低4年かかると述べています。体格が完成するまで長くかかるため、成長期は関節への負担に配慮しながら、ゆっくり育てる姿勢が望ましいです。
飼い方のポイント
社会化としつけ
警戒心が強い気質のため、子犬のうちから、さまざまな人、犬、音、場所に慣らしておくことが大切とされています。PetMDは、新しい人や動物を脅威と受け取らないようにするために、早い時期の社会化が必要だと述べています。体が大きく力が強いため、散歩中にリードを引かれても制御できるか、飼い主自身の体力も考えておきたいところです。
被毛ケア
VCAは、ブラッシングを週に3回程度、換毛期にはもっと頻繁に行うことを案内しています。PetMDによると、年に1〜2回、下毛が大量に抜ける時期があり、抜け毛を取る専用のブラシが役立つとされています。シャンプーは必要なときに行い、皮膚の炎症を避けるため、よく乾かすことが大切とされています。耳は、入浴や水に触れたあとに掃除することが案内されています。
運動
運動量は中程度とされています。VCAは、毎日の適度な運動と、暑い時期に激しい運動を避けることを案内しています。PetMDは、力は強いものの持久力はなく、ジョギングの相棒には向かないとしています。長時間のランニングよりも、毎日の散歩と、安全に走り回れる広い場所があることが大切と考えられます。
日本の住環境で気をつけたいこと
夜間の吠えと近所づきあい
夜に活動的になり、物音に反応して吠えることがある犬種です。PetMDは、ふだんは比較的静かで、異変を知らせるために吠える犬だとしていますが、VCAは夜に大きな声で吠えることがあると書いており、飼う環境によって感じ方は変わります。住宅が密集した地域や集合住宅では、夜間の声が近所の迷惑になる可能性があります。迎える前に、防音のしやすい住まいか、近隣との距離はどうかを考えておくことが望ましいです。
広さと庭、住まいの規約
PetMDは、広い囲いのある庭が理想で、集合住宅での暮らしには向かないとしています。Wikipediaも、広い囲いのある庭では快適に暮らせるが、アパートには適さないと述べています。日本では、庭があっても敷地が狭かったり、外に出られるすき間があったりすることがあります。集合住宅の場合は、管理規約で飼える犬の大きさや頭数が決まっていることがあるため、契約や規約を事前に確認することが大切です。また、体が大きく、見知らぬ人に警戒するため、来客のときや門の出入りの際に、犬が飛び出さないよう、玄関や門の対策も考えておく必要があります。
夏の暑さと抜け毛
厚い被毛をもつため、暑さは苦手とされています。PetMDは、暑い地域や、温帯の春から夏には熱中症に注意が必要としています。日本の夏は高温多湿で、とくに梅雨から夏にかけては、エアコンで室温と湿度を管理し、散歩は早朝や夜の涼しい時間帯にすることが望ましいです。換毛期には抜け毛の量が多くなるため、室内の掃除にも手間がかかります。
迎える前に確認したいこと
- 飼育経験:Wikipediaは初心者に勧められないとしています。大型犬、とくに警戒心の強い犬を、しつけてきた経験があるか
- 住まいと周囲:超大型犬の飼育が認められているか。夜間の吠えや、来客への対応を考えられる環境か。夏の室温管理ができるか
- 費用の見通し:一般に、体が大きい犬ほど、フード代、医療費、トリミング費用などが増えやすい傾向があります。10年以上続く費用として考えておくと安心です
- 親犬の健康管理:股関節や肘の検査について、ブリーダーに確認することが勧められています。VCAも、繁殖に使う犬は股関節の検査を受けているべきだとしています
- 入手先と血統:血統や育てられた環境が分かる、信頼できる相手かどうかの確認が欠かせません。迎え方は、早めに調べておくと安心です
- 家族の合意:家族全員で、しつけと管理のルールをそろえられるか。小さな子どもや来客への対応を決められるか
- 法律上の手続き:91日齢以上の犬は、飼い始めてから30日以内に市町村へ登録し、狂犬病の注射を毎年1回受けさせる必要があります(厚生労働省)
- 終生飼養:動物愛護管理法では、飼い主が最後まで責任をもって飼うことが明文化されています(環境省)
同じく大型の番犬種として、マスティフの性格・特徴・飼い方やグレート・ピレニーズの性格・特徴・飼い方の記事も参考になります。
かかりやすい病気
チベタン・マスティフがかかりやすいとされている病気には、以下のようなものがあります。VCAは、この犬種に大きな健康上の心配は少ないとしていますが、すべての個体が健康とは限りません。気になる症状があれば、自己判断せず必ず獣医師に相談してください。
- 股関節形成不全・肘関節形成不全:関節がうまくかみ合わず、痛みや、歩き方の違和感につながる病気です。遺伝的な要素があり、成長の速さ、筋肉量、食事、運動も関わるとされています。肘の場合は、前足を引きずる様子が見られることがあります。VCAとPetMDが、この犬種の注意点として挙げています。
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンが不足し、元気がない、食欲が落ちる、体重が増える、毛や皮膚の状態が悪くなるといった様子が見られることがあるとされています。VCA、PetMD、Wikipediaが挙げています。診断には血液検査が使われ、薬で管理する方法があるとされています。
- 眼瞼内反症・外反症:まぶたが内側(内反)または外側(外反)に巻き込まれる病気です。PetMDは、目がくぼんだ顔つきのため起こりやすいとし、目やに、目の炎症、角膜の傷につながることがあると説明しています。手術で整える方法があるとされています。
- 耳と皮膚のトラブル:PetMDは、水に触れたあとの耳の掃除や、シャンプー後に十分乾かすことで、感染を防ぐよう案内しています。Wikipediaは、耳の穴が小さいことによる外耳炎や、アレルギーなどの皮膚の問題を挙げています。
- 犬の遺伝性脱髄性ニューロパチー(CIDN):神経の病気で、1980年代初頭に特定の血統で見つかったとWikipediaは述べています。遺伝性とされ、近親交配で再び生じる可能性があるとされています(一部の解説での記載)。親犬の検査や、血統を確認する理由のひとつです。
平均寿命
PetMDでは10〜12年、VCAでは10〜15年とされており、10〜12年程度がひとつの目安です。Wikipediaは、繁殖者の間では10〜16年と言われることがあるものの、根拠は確認されていないとしています。個体差があり、血統、飼育環境、健康管理によっても変わります。
まとめ
チベタン・マスティフは、家族に忠実で堂々とした、番犬としての歴史をもつ超大型犬です。一方で、警戒心の強さ、夜間の吠え、夏の暑さ、広い場所の必要性など、日本の住環境では考えるべき点が多い犬種です。性格や体の大きさ、住まいの条件、費用、血統の確認を踏まえ、飼育経験のある人の助言も受けながら、家族全員で迎える準備ができているか確認してから検討することが望ましいです。気になる症状があれば、自己判断せず必ず獣医師に相談してください。
参考情報源
- ジャパンケネルクラブ「チベタン・マスティフ」(犬種標準)
- The Royal Kennel Club「Tibetan Mastiff」(英国の犬種標準)
- VCA Animal Hospitals「Tibetan Mastiff」
- PetMD「Tibetan Mastiff」
- American Kennel Club「Tibetan Mastiff」
- Wikipedia「Tibetan Mastiff」
- 厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律」
チベタン・マスティフと暮らす人へ
本記事は、JKC(ジャパンケネルクラブ)等の公的資料や獣医療・ペット関連の専門メディアの情報をもとに、編集部で内容を確認のうえ作成しています。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。



